新 釣師列伝 (渓流ライブラリー)

「釣師列伝」というタイトルから想像するのは、佐藤垢石とか井伏鱒二とか開高健みたいな、釣りを趣味にした超有名人の伝記、逸話の寄せ集めだが、この本に登場するのは、そういう趣味人ではなかった。世界的生態学者の今西錦司博士とか、有名舞踊家とか、取り上げられている人のなかには世間によく知られた人がいないわけではないが、大方は無名の、けれどとめどなく釣りにのめりこんだ人たち。釣り、とりわけ渓流釣りがなぜ、そんなに人をひきつけ、迷わせ、とりこにしてしまうのか。克明に描かれた釣師たちの姿を思い描いていると、ぞくぞくしながらも、ひたすら愛惜の念にとらわれる。釣りがたんなる趣味ではなく、自分の生き方そのものになっていることを思い知らせてくれた一冊。